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無機材料向けのオンラインデータベース

更新日:2024年12月24日

 金属やセラミックスなどの無機材料を使用して新しい製品を開発しようとする場合、要求通りの強度や機能をもつ材料を選択するためには、材料特性についての情報やデータが必要になります。また、新しい材料を開発する場合にも、どのような元素をどのように組み合わせていくか、その指針を得るために、既存の材料の構造や特性を把握する必要があります。したがって、材料に関する情報やデータはモノづくりの基盤であり、特に近年注目度が高まりつつあるマテリアルズインフォマティクス分野では、必要不可欠な存在です。


材料データベースの種類

 世の中には数多くの無機材料向けデータベースが存在しますが、取り扱う内容で以下の2つに大きく分類できます。

 材料の側から見た場合、この2つは完全にわかれているわけではなく、例えば、鉄や銅など単体の金属はどちらにも含まれています。

 また、データベースの規模や内容についても様々で、数多くの材料について基本的特性を網羅した大規模なデータベースもあれば、特定の分野に特化した専門的なデータベースもあります。

 ここではオンラインで閲覧可能、かつ、無機材料全般を取り扱う大規模な材料データベースについて、「基礎的な」データベース「実用的」なデータベースそれぞれに分けてご紹介していきます。最後に特定の材料や分野に特化した特化型データベースについても簡単にご紹介いたします。



実験系

シミュレーション系

(第一原理計算)


「基礎的」なデータベース

 純物質の結晶構造や物性を取り扱う基礎的なデータベースでは、データの取得方法によって、実験から得られたデータを取り扱う実験系データベースと、第一原理計算などのシミュレーションから得られたデータを取り扱うシミュレーション系データベースに大きく分けられます。


実験系データベース

  • MPDS

 MPDSPauling File という30万件以上の査読付き科学論文から手作業で収集された無機材料の結晶構造、材料特性、状態図の情報を収録したデータベースを閲覧するためのオンラインプラットフォームです。一部、MPDSのチームが独自に計算した第一原理計算や機械学習により得られた材料特性も含まれています。Webブラウザーから閲覧できるGUIインターフェースと、pythonベースのAPIインターフェース、どちらも備えています。

 基本的に有料のサービスですが、一部のデータは無料で閲覧・ダウンロードすることができます。


  • AtomWork

 AtomWorkは日本の国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)が公開しているデータベースで、MPDSと同様に無機材料の結晶構造、材料特性、状態図が収録されたPauling Fileのデータを閲覧できます。あらかじめドメイン登録されている組織に所属している方は、所属組織のメールアドレスを登録すれば、無料で利用することができます。

 さらに、有料版のAtomWork-Advでは、無料版AtomWorkの約3~5倍のデータを閲覧することができます。データはWebブラウザーから閲覧することができますが、APIインターフェースは備えておらず、ウェブスクレイピングおよび大量ダウンロードは禁止されています。マテリアルズインフォマティクスのように大量のデータを必要とする分野での利用は難しいかもしれません。


  • ICSD

 ICSDはドイツのFIZ Karlsruheが運用する無機材料のデータベースです。MPDS, AtomWorkとは異なり、主に結晶構造を提供しており、材料特性や状態図は収録されていませんが、計算科学分野など、結晶構造のみを目的とする人にとっては十分であるとも言えます。ただ、収録されている結晶構造のデータ数だけを単純に比較すると、MPDS が約50万件に対して、ICSDが約30万件と、MPDSの方に軍配があがります(2024年11月現在)

 一般社団法人化学情報協会のサイトに多くの日本語情報が掲載されており、契約もこちらの協会を通してできるようです。


シミュレーション系データベース

  • The Materials Project

 The Material Projectは無機材料に関する第一原理計算結果のデータベースであり、結晶構造、バンド構造、状態密度など様々な特性を閲覧することができます。シミュレーション結果をまとめたデータベースであることから、まだ世界に存在しない材料についても、その構造や予測値を見ることができるのが、実験系のデータベースと異なり面白い点であるとも言えます。ユーザー登録は必要ですが、利用は無料です。



実用的なデータベース

 工業的に使われる実用材料の材料特性を扱う「実用的」なデータベースでは、ハンドブックに掲載されているデータや、各国の規格で定められた値を中心に、各材料メーカーから提供されるカタログ値が掲載されています。


  • MatWeb

 MatWebは金属、セラミックス、ポリマー、複合材料など幅広い材料を対象としており、ハンドブックのデータ、規格データの他、各素材メーカーから提供されるカタログ値が掲載されています。ただし、日本メーカーの材料に関するカタログ値はそれほど多くないようです。

無料でほぼ全てのデータを閲覧できますが、有料登録をすると、検索条件を増やすことができる他、CAD/FEAソフトにそのまま読み込ませられる形式でデータをダウンロードできるようです。商用利用の場合は有料版が必要です。


  • Total Materia

 Total MateriaはMatWebと同様に、ハンドブックのデータ、規格データの他、素材メーカーのカタログ値が掲載されています。データ数はTotal Materiaの方が圧倒的に多く、MatWebでは18万種類以上の材料を取り扱っているのに対し、Total Materiaでは54万種類以上の材料についてのデータが収録されています。(2024年11月現在)



補足:特化型データベース

 本記事では、無機材料全般を取り扱う大規模なオンライン材料データベースについてご紹介しましたが、開発する製品の内容や材料の種類により、必要とするデータは異なってきます。対象が決まっている場合は、大規模なデータベースよりも、特定の材料や分野に特化したデータベースの方が専門的で詳しいデータを得られる可能性が高いことが多いです。

 日本には特定の材料や分野に特化したデータベースが数多くあり、NIMSのMatNaviAISTで多くのデータベースが公開されています。これらは無料または登録で閲覧可能です。また、Starry dataというオープンデータベース構築プロジェクトは、最初、熱電材料の実験データのデータベースとしてスタートしましたが、2024年11月現在、対象が熱電材料の他、磁性材料、低熱伝導材料、凝集体、高熱伝導材料、ハイパーマテリアル、圧電材料となっており、着実に分野を広げつつあります。

 大規模オンライン材料データベースで思うようなデータが得られなかった場合は、このような特化型材料データベースを探してみてもよいかもしれません。


 


 以上、無機材料全般を取り扱う大規模なオンライン材料データベースを中心に、一部、特化型の材料データベースについてもご紹介しました。

 この記事を通して、みなさまが製品開発や材料開発、材料研究に必要なデータに到達できるお手伝いができれば幸いです。

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